『夢』


川べりには水車小屋。
草が茂る土手。
流れの中には魚の影が…と、こんな景色がここ日本で見られたのはいつごろまでだったろう。
黒澤明の映画「夢」の舞台になったここは、穂高のわさび農場の一角だ。


©TAKASHI MARUYAMA

大好きだった叔父が自費出版した絵本『水車小屋』には、彼のふるさと・新村にかつてあった水車が描かれている。

── 丸さんの絵日記 No5 「水車小屋」より
秋の 午後
よく澄んだ 青空の日が、つづきます。
近所に、大きな水車のある家が ありました。
長い年月、水を吸って 黒く重たくなった 水車が
ゆっくり ゆっくり やっとこさ まわっています。
石臼が、ときどき 音をたてて ふるえます。
「いたみがひどくて、今年いっぱいってとこかな」
そこのおじいさんは、言ってました。
水車にも、寿命があります。
木がもろくなって、修理が出来ません。
今は、稲刈りの 真っ最中です。
おばあさんは、家に残って オコヒル(お3時)の準備と、水車番です。 ──


©TAKASHI MARUYAMA

村内には共同の水車小屋もあり、水車は鋼鉄製で「小型で高速回転でパワーがあった」。それは戦争中に国に献納され、戦後村は水車を作れないまま小屋は朽ち、そして取り壊された…と、ある。
鉄製の水車はさぞかし村人に重宝されただろうが、水車と言ったら、風情があるのはやはり、木製だ。
そしてこんな木製の水車は観光地か蕎麦屋さんのディスプレイにしか見られなくなった。この水車もまた、映画のために作られたものだ。


©TAKASHI MARUYAMA

その映画「夢」の中で、笠智衆(りゅうちしゅう)さん扮する村の古老がこの水車の横に座り、穏やかに、訥々とこう語る。

『人間は 便利なものに弱い。
便利なものほど いいものだと思って 本当にいいものを捨ててしまう。
近頃の人間は 自分達も自然の一部だということを忘れている。
人間に一番大切なのは いい空気や自然な水 それをつくりだす木や草なのに。
汚された空気や水は 人間の心まで汚してしまう。』

小屋の横に植えられた西洋アジサイが花盛りだった。
川面に葉先を浮かべる水草には、ハグロトンボが羽を休めていた。


Diary : 信州 index

RYUKO KAMIJIMA Web Site

© 2003-2023 Ryuko-Kamijima.